「産学連携と新事業の創生:概論と現状」
東京大学先端科学技術研究センター
教授 渡部俊也
要旨作成:松村 智也
近年、産学連携が注目されている。その背景として日本経済の停滞、知的財産を重視する政策、科学技術政策の3つが挙げられる。これまで大学は、教育と研究を目的としてきた。しかし、大学が生み出した資源は論文発表するだけでは不充分であり、知的財産化して産業界に貢献すべきだという考えが生まれた。大学には公共財が用いられているというのがその根拠である。その考えを具現化するものとして、産学連携がある。
産学連携の形態としてベンチャー創業、技術移転、大学と企業の共同研究に分類することができる。需給関係に基づいた取引であるという点で、産学連携は従来の大学機能と異なっている。
アメリカで産学連携の基礎となったのは、1980年に成立したバイ・ドール法である。日本の経済成長に危機感を持った当時のアメリカ政府は、民間の技術を日本企業が利用するのを阻止するため特許重視政策をとり、また大学の資産を活用できるよう産学連携を推進した。1999年の統計によると、アメリカでは産学連携により335億ドルの経済効果、28万人の雇用創出、年間364社の創業があったとされている。
その成功例をふまえ、日本もこの数年のあいだに、特許権を重視し産学連携を促進する政策を取りはじめた。大学制度改革など規制緩和が進み、産学連携の障害は取り除かれつつある。各地に技術移転機関やインキュベーターが設置され、徐々に基盤も整いつつある。既存の産業構造の中から新しい事業が生まれてこない現状において、大学発の技術ベンチャーや技術移転、大学と企業の共同研究というのは魅力的な戦略であり、日本経済を盛り立てる可能性を持っている。