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特許プール分科会(概要)

担当:伊原、小助川、中村、村田

1.特許プールとは

 特許の重要性の拡大、技術の複雑化・高度化、経営における選択と集中の流れなどの経営環境の変化の中で、従来の自前主義的、防衛的な特許戦略の見直しが求められているのではないか。その新しい特許戦略の方向性としては、「自社の無形財産の付加価値を高める」「企業活動の自由度を高める」「知的財産をプロフィットセンタへ、そしてビジョナリなものへ」「所有から利用へ」といった点がポイントではないか。そうした流れの中で、特許プールというのも新しい特許戦略としてこれから着目していく可能性があるのではないか。

2.具体的な事例

特許プールというもののイメージの把握、その問題点、課題、成功のポイントなどについて考えるきっかけとして、2つの典型的な特許プールについての事例を紹介。

@パチンコ機の特許プール:独占禁止法との関係で違法と判断されたケース。

AMPEG2の特許プール:一般的に成功しているといわれているケース。

3.参加者による討論会

 以下の4分野の特許プールについて、それぞれの仮説のケースを提示。5グループ(課題3のみ2グループ)において、特許プールが成功するか失敗するかを議論し、その議論の結果を、理由を含めて発表。

@課題1:次世代PCの特許プール

【結論】
 ハードウェア関係の企業のみで利害関係を調節し、次世代PCのための特許プール形成していくことはおそらく困難であろう。
【理由】
 特許プールへの参加主体を中心にして討論したが、ハードウェア関連企業のみで特許をプールする場合、おそらく、各社が多様な利害を有するために、その調整が非常に困難であろうと考えられる。ことにパソコンという多様なコンポーネントが関わる複雑な製品の場合にはそのことが顕著に現れるのではないか? また、調整の困難性と関連して、特許をプールすることの最終目的がどのようなものなのかを明確にすること自体がおそらく難しいであろうと考えた。
 もし、プールが成功するならば、それは特許プールに参加する各企業のそれぞれの利害を超越するような、明確な目的が存在し、この明確な目的を参加者全員が共有することができ、尚且つその目的に向かって特許プールに参加する企業群を強力に引っ張っていく、カリスマ性のある人の存在が絶対に必要であると考える。

A課題2:生分解プラスチックの特許プール

【結論】

特許プールは難しいという意見が大勢。
【理由】
 例えば沖縄と北海道では分解土壌が異なるので、生プラの種類も地域ごとに異なる。だからどの地域で使うかによって利用する特許も異なってくるはずだ。
すると日本全国統一のプールでは失敗するので、地域化した上でのプールのほうが良いのではないか。いっぽう地域ごとに細々と使う場合、採算が合うだろうか。
 プールを作るとしたら、基盤技術ごとに作るといいのではないか。生プラ特許の中で、もっとも基盤となる技術は合成法である。合成法以外は特許プールには難しい。
ただし合成法だけでも大きく3つに分かれているので、ある方法が必ず使われるとは限らない。そのため合成法すら特許プールには向いていないかもしれない。
 外国からの出願が22%を占めているが、彼らも特許プールに参加してくれるのだろうか。特許プールに特許を拠出する側のメリットとしては、よその特許に抵触せずに融通し合えるという点だと思う。
 政府が検定マークなどをつけて、このマークがないと売れません、などとして無理やり入らせるといった施策が必要ではないか。


B課題3:製薬分野の特許プール
【結論】

製薬分野では、創薬の上流部分つまり、遺伝子やタンパク質など共通に使用するものには特許プール的なものが考えられるかもしれない。しかし、企業戦略に深く関連してくる医薬品そのものや医薬品と診断技術をまとめてプールすることは難しい。

【理由】

医薬品創出のためには、いろいろなフェーズがある。そのフェーズごとに特許プールの可能性を探った。遺伝子やタンパク質に特許が認められれば、一つの医薬品を作るのに階層的な特許が必要になる。この場合、プールすることも考えられる。しかし、もともと遺伝子は、有限であり代替性がない上に、使用用途は多岐に渡る。また、公共性もある。このような場合にそもそも特許を認めること自体を疑問に感じる。政府などの第3者機関が管理すべきもので、例えば、特許を買い取って必要に応じてライセンスするという「逆特許プール」のようなものも考えられる。

一方、医薬品という最終製品(物質特許)では、企業同士の競争が必要であり、差別化も重要になる。また、医薬品と診断技術をまとめてプールするのは難しい。企業戦略として医薬品だけに特化したり、診断技術だけに特化したりする企業もある。製薬の下流部分では、プレーヤーが多岐に渡り、それぞれ利害関係が違ってくるのでプールに入るためのインセンティブが維持できなくなる。

C課題4:コンビニエンスストアのビジネスモデルの特許プール

【結論】

 特許プールを作るためには、様々な条件をクリアすることが必要で、それらを考えると難しいのではないか。

【理由】

特許プールを作るためには、特許を持っている企業にインセンティブが必要であるが、コンビニエンスストアの各企業が特許を拠出するメリット、特許プールを作る必要性があまりないのではないか。あるとすれば、大手の企業がデファクトスタンダードを獲得するために自分のところが中心となって特許プールを形成しようとするか、中小の企業が大手企業に対抗するために特許をプールするという流れであり、業界全体で特許プールを作るという流れにはならないと考えられる。

仮に、業界横断的な特許プールが形成されることを前提とすれば、その成功の鍵を握るのは、運営が中立的機関によってなされること、boundary frame(プールする特許の外延)をはっきり決めることではないか。また、信頼関係も重要。誰か他の企業が重要な特許を隠していて、ある時期になったら、それを持って、特許プールから出て行ってしまうようでは成り立たない。

4.まとめ

 これまでの分科会のディスカッションの中では、特許プールの成功ポイントとして、以下のようなことがあるのではないかとの議論がある。

○運営主体は中立的な方がいい(特に対象とする特許の選別は中立的な立場で行われた方がいい)。

○特許が多数乱立している分野の方が成立しやすい(特に相補的、階層的な特許が多数の場合)。

○ライセンスは、低価格で誰でも受けられる方がいい(エンドユーザー(社会)の効用向上、独占禁止法的な観点)。

○ライセンサーとライセンシーは一致しないが、重なっていた方がいい(調整コスト、侵害リスクの低減)。

 ただ、本日の討論会のディスカッションの中では、「逆特許プール」といったアイディアや、人的な要素が大きく左右するといった意見などもあったので、さらに研究を進め、「21世紀のオープン型特許プール」というものに着目していきたい。

5.総括

 全体としては、特許プールというものがうまく機能していくのは、容易ではないことが改めて明らかになった。そもそも、特許プールというものに対する考え方が確立しておらず、そうした中でオープン型というものを捉えるのは難しいものと考えられる。

 進め方としては、時間があまり無い中では、課題の設定(ケースの内容)において、もう少し議論が絞れるような形にした方がいいのではないかとの印象あり

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